2023年07月27日 (更新 2024年11月24日)

「大豆ミート」はお肉の代替品なのか!?〜大豆ミート料理研究家に直撃!第2弾【後編】

Snapdishでは、大豆ミートの魅力をもっと多くの方に知っていただきたいと考え、2022年3月29日(肉の日)に「肉の日に大豆ミートプロジェクト」を発足しました。その活動のひとつとして、長年にわたって大豆ミート料理を研究されている料理家へのインタビュー企画をスタート。

1回目の坂東万有子さんに続き、2回目は日本ソイフードマイスター協会代表理事でソイフード(大豆料理)研究家の池上紗織さんにお話をお聞きしました。前編の「夏のお弁当にこそ大豆ミートを使って欲しい!」に続く後編は、大豆ミートが急速に普及している今だからこそ、知っておきたいことについてお話しいただきます。
「日本ソイフードマイスター協会」代表理事で、日本のソイフード研究の第一人者として知られる池上紗織さん。

「大豆ミート」は、お肉の代替品なのか!?


前編では大豆ミートにハマったきっかけや、魅力についてお話しいただきました。後編では、大豆ミートが一般に普及した今の状況について、感じていることをお聞きしました。

編集部)最近は大豆ミート商品がすごく増えて、目移りすることも…。選ぶポイントはありますか?
池上さん  大豆ミート商品の選択肢が増えたのはとても嬉しいことなのですが、今は、大豆100%の商品も、材料の一部に大豆たんぱくが入っている商品も、パッケージには同じように「大豆ミート」と表示できます。だから「大豆ミート」と言っても思い浮かべるものは人それぞれ違って、どんな食品なのかぼんやりしているのではないでしょうか。

ちなみに前編では、そのまますぐ食べられる惣菜の大豆ミートではなく、調理が必須の100%大豆の大豆ミートについて話していましたよ。

大豆ミートに限ったことではありませんが、自分たちがどんなものを食べているのかを知ることはとても大事です。材料の割合が多い順番に表示されている原材料表示を確認して、買う時には自分が求めているものに合致しているか、選ぶことができるようになるといいですね。

私はいつも、できるだけシンプルな素材のものを選ぶようにしています。
編集部)確かに、最近の大豆ミートはさまざまなタイプが増えていますよね。買いやすくなった一方で、「大豆のにおいがどうしても苦手」と感じる人も多いようです。
▲大豆ミートの専門家として、イベントでさまざまなメーカーの大豆ミートの特色を解説することも。
池上さん  特有のにおいは「大豆のにおい」というより、「大豆ミートのにおい」なんです。お豆腐にあのにおいはありませんよね。

大豆から油を抜いて高温加熱の加工をする過程で独特の大豆臭が生まれてしまいます。大豆ミート調理ではその独特のにおいを消すことも美味しく食べるコツなのですが、そのにおいを消したからといって、大豆なのだからもちろん大豆の味がします。シンプルな大豆ミートほど、いい意味でちゃんと大豆の味がするのです。

お肉の煮込み料理でお酒や香味野菜で臭み取りをするとより美味しくなるのと同じで、大豆ミートも臭み取りをしつつ大豆のいい味を活かして調理すると格段に美味しくなりますよ

でもよく知らないと「大豆ミート」という名前だから、お肉と同じ味を期待してしまいますよね。名前からくるイメージと食べた時にギャップがあるので、食べた時にがっかりしてしまう人が多いんじゃないでしょうか。

クッキーを食べたい時にお煎餅を出されたら「違う!」と思うでしょう? でも本来お煎餅はお煎餅として美味しいわけです。大豆ミートは大豆ミート。牛肉でも豚肉でも鶏肉でもないので、大豆ミートとして食べるのがいいと思っていますよ。
編集部)なるほど。「お肉」という呼び方のせいで、食べた時に期待値を上回らず、悪いイメージが付いてしまうのかもしれませんね。
池上さん  私はもともとお肉が大好きなので、例えばステーキを食べたい気分の時に大豆ミートを出されたら嫌です。でも大豆ミートを食べたい気分の時もあるのです。

息子も「鶏の唐揚げが食べたい」とリクエストすることもあれば、「大豆ミートの唐揚げが食べたい」という時もあります。我が家では、昨日は鶏、今日は大豆、明日は魚、と毎日の献立作りの中の自然な選択肢として大豆ミートが入っていますね。

私は大豆ミートをあくまでも「お肉とは別の、噛み応えのある美味しい大豆食品」と捉えています。ですから「お肉じゃない」=「美味しくない」という評価になることは残念です。「社会課題のために食べなくてはいけない」「美味しくないけど仕方なく食べる」なんて思ってほしくありません。大豆の栄養は大豆ミートでなくても摂れるのだから、無くても生きていけます。大豆ミートだからこそのポジティブな「食べたい理由」がもっと広まってほしいと思っています。

昔から大豆は「畑の肉」とも呼ばれます。お肉というワードを使っているけれど、この呼び名の方が「牛・豚・鶏」と比べようとはしないかもしれませんね。「大豆ミート」という言い方は、比較を促してしまっていて、もしかして良くないのかも…なんて思います。すみません、大豆ミートプロジェクトなのに(笑)

大豆ミートには毎日のお料理に役立つメリットもたくさんあるんですよ!たとえば、単純にお肉や魚などのたんぱく源が家にない時、お肉の献立が続いた後、育ち盛りのお子さんやスポーツをする方の身体作りなど、皆さんも毎日の献立に大豆ミートを加えることで、お料理の幅が少し広がると思いませんか? お肉の代わりに我慢して食べるのではなく、別物としてしっかり満足できるレシピや魅力を伝えていきたいと思っています。
▲池上さんが追求しているテーマのひとつ、大豆ミートを使った「アスリート飯」

大豆ミート自体に「旨み」はないけど、「旨みを吸う力」がある


編集部)「大豆ミート」という名前だから、お肉と同じように調理してしまう人も多いのかもしれませんね。
池上さん  そうなんです! 以前、Snapdishで開催した「大豆ミートファンミーティング」でも、そこをポイントとしてお話しさせていただきました。

大豆ミートのいいところは、お肉みたいな噛みごたえがあることですが、でも、噛んでもお肉みたいな旨味は出てこないんです。当たり前なのですが(笑)

その代わり、大豆ミートには「旨みを吸う」力がありますので、かつおぶしや鶏ガラスープの素など、大豆には無いうま味成分であるイノシン酸を持つ食材を染みこませると、美味しくなるんです。冷ややっこに醤油だけかけるより、鰹節をかけるとより美味しくなるのと同じ理由です。
編集部)「大豆ミートファンミ―ティング」で教えていただいた「大豆ミートのカンタン!肉みそ」、作り置きしておくとドンドン味が染みて美味しくなるので、ヘビロテしてます!

何日か置いたものはふっくら膨らんで、噛むと中から肉汁みたいに旨みが染み出すので、最近はあえて寝かせて“育てて"います。
「大豆ミートのカンタン!肉みそ」
水でのばした味噌、かつお節、なるべく細かくカットした長ネギを混ぜて、乾燥・ミンチタイプの大豆肉をもどさずそのまま混ぜ合わせ、タッパーに入れて寝かせるだけで完成。3時間くらいで中までしっとり戻ってきますが1晩寝かせるのがおすすめ。冷蔵庫で4~5日もちます。味噌の種類によって味はガラッとかわりますよ。
Snapdishの料理写真:大豆ミート肉みそでジャージャー麺
大豆ミート肉みそでジャージャー麺
marukome 11/29開催の「大豆ミートオンラインファンミーティング」でご紹介いただいた ソイフード研究家、池上紗織さん考案のレシピです。 とっても簡単に出来上がるので、ぜひみなさんもお試しください!
池上さん  時間がたつと味が染みてより美味しくなるのも、大豆ミートの特長なんです。ですから、おっしゃる通り、作り置きに向いているんですよね。

そして、「大豆ミートはお肉じゃない」のですが、食感はすごくお肉に近いんです。なので、「日本ソイフードマイスター協会」のソイフードレッスンでは、そうした食感の良さ活かした大豆ミート料理も教えています。
▲「日本ソイフードマイスター協会」のオンラインソイフードレッスンより「やみつき鶏皮ポン酢風」
▲「日本ソイフードマイスター協会」のオンラインソイフードレッスン」より「チンジャオロース風」

新しいソイフード「ギャンモ」を開発した理由


編集部)最近、大豆食品メーカーのエヌ・ディ・シーと「日本ソイフードマイスター協会」が共同で、「GAMMO(ギャンモ)バーガープロジェクト」を立ち上げたというお話を聞きました。
池上さん  私は“ソイフード研究家"ですので、大豆をひたすら隠してお肉に近づけようとすることに対して、「大豆ちゃん可哀そうだわ」なんて思ったりします(笑) 大豆は隠さなくてもよくないかな?って思うのです。大豆ミートだと、誉め言葉が「大豆だってわからないね!」ですからね。私はむしろ、しっかり噛んで大豆の味を感じてほしいくらいです。

日本は仏教が普及した鎌倉時代から大豆の加工技術が発達してきました。いま私達がこんなにも多種多様な大豆加工食品を美味しく食べられるのは、栄養価が高い大豆の加工技術を磨いてきた先人たちの知恵の賜物なんです。精進料理の「がんもどき」もそのひとつ。

これらの昔ながらの大豆加工食品と、現代の新しい大豆加工食品を掛け合わせて進化系がんもどき「ギャンモ」を作っています。食べるシチュエーションはいわゆる「代替肉」と言われる食品と似ていますが、最大の特徴は「代替ではなく昔ながらの大豆製品の延長線上の食品」であることです。肉を目指していません。ただ、大豆ミートも用いることでしっかり噛み応えも出し、メインのおかずになるような食品を目指しました。

「大豆が嫌いだけど植物性のたんぱく質を摂りたい人」や、「お肉にそっくりな方が嬉しい」という人もいるでしょうから、「お肉っぽさの再現の研究をどんどんがんばります!」というメーカーさんの存在も、それはそれでいいと思っています。この研究は今後も止まらないでしょう。その技術力には驚きと関心をもって注目しています。

「ギャンモ」は私が数年構想していたことなのですが、協会は製造販売業ではないのでパートナーが必要です。そこで最初に名乗りを上げてくださったのがエヌ・ディ・シーでした。

ギャンモは商品名ではなく「カテゴリー名」です。豆腐・厚揚げ・がんもどき・ギャンモみたいに。第一弾はエヌ・ディ・シー製ですが、今後いろんなメーカーさんと「ギャンモ」を作っていけたらと思っています。

ひとつの商品だけで決めつけずに、いろいろなものにトライして欲しい

編集部)いろいろなお話をうかがいましたが、最後にこれを読んでくださっている方々へのメッセージをお願いします。
池上さん  ひとつの商品を試して、それが口に合わなかったとしても、それだけで「大豆ミートは美味しくない」というイメージを抱かないでほしいということです。

今は本当にいろいろな大豆ミート商品が出ていますし、味もクオリティもさまざま。いろんな商品や調理法を試してみていただきたいですね。
編集部)同感です!Snapdishの「肉の日に大豆ミートプロジェクト」も、自分や家族の食を豊かにするための選択肢として、牛・豚・鶏の3種のお肉に大豆も取り入れていこう、そのときどきのライフスタイルや食生活によって、自分にあった食材を選べるようにしていこう、という提案なんです。
池上さん  日本は少子化で人口減ですが、世界的には人口増加と食糧危機が迫っていて、将来的には今までのようにお肉が食べられない社会になっていくのは間違いないです。

そうなった時に大豆ミートがきっと助けになるはず。無理に食べる必要は全くないけれど、自分に合ったものと出会うことができれば、食卓も人生ももっと豊かになるはずです。
編集部)ありがとうございました! 新しい視点がたくさんあって、大豆ミートの見方が少し変わってきました。これからも、大豆ミートならではの美味しい食べ方の発信を楽しみにしています! 
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