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束の間の自由時間
というのは、なにゆえ甘美なるものなのであろうか
本日は我が家の大黒柱
……つまり家内が、所用にて上京。朝早くから身支度を整え、新幹線に乗り、都会の雑踏へと消えていった。その背中を見送る私は、すでに心のどこかで小さくガッツポーズをしていたのかもしれない。もちろん、彼女がいない生活など想像したくもないが、「いない一日」というのは、また別の話である
夜には戻ってくると聞いている
だからほんの十数時間の独身生活。されどこの短い時間の持つ意味はあまりに大きい。誰にも干渉されず、誰に遠慮することもなく、好きなように動き、好きなように喰らい、好きなようにだらけることができる。これこそが「大人の自由」であり、「小さな贅沢」であり、「密かな祝祭」である
早々に布団をしき
寝転びながらテレビのリモコンを手に取った。YouTubeでどうでもいいショート動画を次々と再生し、Netflixで観かけた海外ドラマを消化し、U-NEXTでやたらと長いドキュメンタリーを途中まで見ては飽きる。合間にバラエティ番組で声を出して笑い、スマホでSNSを眺めてはまた無限ループに戻る。この「フリーでテキトーな暇つぶし」こそ、忙しい日常の中では得難い至福の時間なのだ
時刻はやがて正午へ
自然と空腹を覚える。さて、ランチはどうしようか。いつもなら「どこで何を食べようか」と外に繰り出すところだが、今日に限っては違う。なにしろ、家内が不在である。これは貴重なチャンスなのだ
私のマイルールに
「家内がいるときに食べられないものを、いないうちに思う存分食べる」というものがある。油ギトギトのラーメン、または肉々しい肉料理など、彼女の健康志向と相容れぬ品々。そういうものを、彼女の目を気にせずに食す瞬間にこそ、自由の悦びがある
そんなわけで
財布とエコバッグを手に取り、近所の激安スーパーへと向かった。ここは地域でも有名な格安店で、精肉コーナーの充実ぶりには定評がある。求めるものはただひとつ
「肉塊」だ
スライスでも、ミンチでもない。ゴロリとした、文字通り「かたまり肉」を喰らいたい。文明的な配慮など知ったことか。私は今、獣の本能に従って肉を求めていた
売り場であれこれと
見比べ、冷蔵ケースの前を行ったり来たり。なにしろ決断力には乏しい性格である。牛か、鶏か、ラムか。脂身のバランス、グラム単価、調理の難易度……数々の要素を脳内で計算しつづけ、ようやく選んだのがこちら
「国産豚 ももかたまり肉 359g」。
税込495円。この価格でこのボリューム。脂は少なめだが、しっかりとした赤身。焼けば旨味が立ち上がるに違いない。
帰宅後、肉はしばし常温に放置
料理初心者なりに学んだことだが、肉は冷蔵庫から出してすぐに焼いてはいけない。冷たいままだと火が均等に通らず、表面だけが焦げて中は生焼け、という悲劇を招く。室温で馴染ませることで、調理は一段と上手くいく
赤身と脂の境目にある筋に
包丁で軽く切り込みを入れ、塩と胡椒をたっぷり振って馴染ませる。フライパンにオリーブオイル。煙が立つほど熱してから、いざ肉投入。ジューッという音とともに肉の表面が白く変わっていく様子を眺めるのは、もはや調理というより「儀式」に近い。
各面に焼き色がついたところで
火を弱め、片面5分、裏返して5分。仕上げに竹串で中心を刺し、透明な肉汁が出てくれば成功の合図。火を止めたら
アルミホイルで包み5分間の休ませタイム
この「肉を落ち着かせる」工程が、じつは大切なのだという。肉汁が内部に行き渡り、しっとりと柔らかくなる――そのように某料理系YouTuberが言っていた
肉を切ると、中心部はほんのりピンク色
「もう少し火を通すべきだったか」と一瞬よぎるが、再加熱するのも面倒だし、なにより今日食べるのは自分ひとりなのだ。腹を壊しても、誰にも迷惑はかけない。私の肉で、私の体なのだから、何の問題もない
そして、仕上げのソース
フライパンに残った肉汁に、中濃ソース大さじ1、ケチャップ大さじ1、砂糖小さじ1を加えて軽く加熱。これが思いのほか美味で、肉にたっぷりとかければ、まるで洋食屋の一皿のようになる。
いざ、実食
ナイフを入れた感触はまずまず。口に運ぶと……少し筋が硬い部分もあったが、赤身の歯ごたえは悪くない。味付けは控えめすぎたかもしれないが、肉そのものの味が引き立っているとも言える。何より、ひとりで思うがままに喰らうこの開放感に勝る調味料はない
満腹、満足
肉の油とソースの残り香を舌に残しながら、再び布団へと転がり込む。画面の向こうでは、芸人が叫び、映画の登場人物が銃を撃ち、人生の悲喜こもごもが繰り広げられているが、私の時間は緩やかに進んでいく
午後の光が部屋に差し込み
肉の匂いがまだわずかに残る静かなリビングで、私はゴロリと横になったまま、心地よい眠気に身を任せる
ああ、なんて幸せな休日だろうか。
たった一人、ただ肉を焼いて喰っただけの昼下がり。だが、この些細な日常こそ、人生の中でふと振り返ったときに微笑みをくれる瞬間なのかもしれない